『言霊はこうして実現する』伯家神道の秘儀継承者・七沢賢治が明かす神話と最先端科学の世界

袋小路に陥った西洋文明に突破口を指し示すと同時に、新しい時代における個人個人の生き方を導くものとして、本書では西洋文明と東洋文明とを融合・昇華させる新たなパラダイムを提示してきた。
それは、人と神が一体であったころの考え方を現代によみがえらせるものであり、科学文明が発達した現代に適用されることで、人類に新しい選択肢を示すものでもあるが、それを示しうる数少ない国である日本では、国民の多くが日本独自の文化から離れつつあるのが現状だ。
そこで本書では、古代の日本哲学を今に伝える言霊学と伯家神道を中心にして、哲学、宗教、古代祭祀、量子論、量子場脳理論などを網羅する研究を行ってきた七沢賢治氏を案内人として、その新たな理念と実践の具体的な方法を探ってきた。
一通り読んでくださった方であれば、この本が非常に広範な事象を扱っていることに驚かれたことだろう。
それは必然的に、人類にとって未踏の分野へ足を踏み入れることにもなり、そのため、人文科学のアプローチでも、自然科学のアプローチでもない独自のスタンスで論を進めることになった。
ここで再度、明示しておきたいのは、各科学分野、そして哲学や宗教が提示する世界像の類似性・相似性を検討するにあたり、科学的・論理的な手順・思考を前提にはしたものの、どうしてもアナロジー（類比）を多用する結果となってしまった点だ。
このようなスタンスはともすれば、あいまいな論理展開として、あるいは不正確な科学の装いとして感じられるかもしれない。
だが、これを契機として、人文科学と自然科学との間に、あるいは物理学者と哲学者との間に対話が生まれ、また、一般の読者においては、個人の生活とマクロな世界との関係を俯瞰する視点を得ることになれば幸いである。
それによって、新時代を迎えるためのパラダイム転換の基軸として、階層化と統合化への理解を深めていけたなら、七沢氏のいう「文明の大祓」を、より良い形で乗り越えていくことができると筆者は信じている。

２０１０年６月
大野靖志