出版社:文芸社 著者:大野靖志 定価:1,680円
●プロローグ― 言霊によって現実を変える具体的な方法を初公開 ― どうして日本語は美しいのか? ― 言霊(ことだま)は「単なる迷信」ではない ― 西洋的価値観は私たちを幸せにしたか ― 日本― 新しい文明のパラダイムを提示しうる国 ― いにしえの叡智を今に伝える言霊学と伯家神道 ― 階層性と統合性によって知識を整理する ― 本書の使命とその方法論
伯家神道の秘儀継承者・七沢賢治が明かす神話と最先端科学の世界
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五霊五魂を鎮魂する伯家神道の行法
十種神宝御法の六種では鎮魂(ちんこん)というものを行う。伯家神道の人間観・霊魂観について深く知るために、この鎮魂について少し詳しく解説しておこう。
鎮魂という言葉は一般に死者の霊を慰めることだと思われているが、神道における鎮魂は生者の魂を鎮(しず)めることを指している。
一般の神道では、魂にはその新しいものを生み出す側面を表す荒魂(あらみたま)、優しく平和的な側面を表す和魂(にきみたま)、収穫をもたらす働きを表す幸魂(さきみたま)、奇跡のような力をもたらす奇魂(くしみたま)……という四種類があるとされているが、伯家神道はそこに精魂(くわしみたま)が加わって五魂となる。そして、そのそれぞれの働きを調整させることが鎮魂であるとされている。
十種神宝御法・六種鎮魂における拍手では、五魂を鎮魂させ、天地開闢(かいびゃく)と念じ、地に向かって三千(さんぜん)世界に気を配り、大地に向かって神を迎え一拝する。
さてここで、伯家神道独自の概念である精魂(くわしみたま)について、七沢氏の説明が要されよう。
「精魂(くわしみたま)は明治より以前は泥魂(ぬるみたま)とも呼ばれてきました。生命が泥から生まれて泥へ帰るということを考えれば、その重要性は明白です。泥魂は統合する働きであり、昔は統合、統治する働きは天皇だけのものであったから、これを抜いて四魂としたのでしょう。天皇を『スメラミコト』と呼んだのは、その存在が『統(す)べるミコト』であったからです。
おそらく、泥魂は隠されたわけではなく、民に使えなかったから知らされなかったのでしょう。一方、天皇には統合する魂としての泥魂がしっかりと教えられた。つまり、泥(土と水)と一つになるということです。天皇が儀礼として『お田植え』するのはそれを象徴しているのです」
七沢氏によると、泥と一体になるのは国津神と一体になることに等しいという。それによって天皇は国体、すなわち国の体としての自覚に至るという。
さて、一般の神道では四魂の上に直霊(なおひ)があり、合わせて一霊四魂(いちれいしこん)と呼ばれるが、伯家神道では一霊ではなく五霊(生産霊(いくむすび)・高牟須霊(たかみむすび)、神牟須霊(かみむすび)・足産霊(たるむすび)・玉留産霊(たまつめむすび))となっており、五霊五魂という五階層による霊魂観が確立している。そこで、伯家神道でいう鎮魂とは、その五霊五魂の調整を指すことになる。
七沢氏によると、五霊は、より大きな枠組の五階層における結合の階層に位置づけられており、自然界に働く四つの力(弱い力、強い力、電磁気力、重力)、並びにその背後にあると考えられる万象生成のエネルギーとしての「創造意志力」にそれぞれ対応するという。
「物質を物質たらしめているこれらの結合エネルギーが、神道で産霊(むすび)と呼ばれるものです。ただし、これは科学的な観点から述べているのではありません。あくまで論理的にはそのように表現することが可能であるということに過ぎません。しかし、そこから生まれる仮説に基づいて実験をしてみると、仮説通りの結果が出てくるのです」
と七沢氏は説明する。ここでいう実験については第4章で詳しく説明しよう。
七沢氏によると、エネルギーとしての霊が結合したものが魂であるという。霊それ自体は「結ぶ」だけの働きだけなので、そこに力があることが分からない。分からないから、結合という階層についてほかの哲学や宗教は語ることがなく、『古事記』に代表される古代日本哲学だけが、産霊(むすび)の哲学を持つことになったという。