出版社:文芸社 著者:大野靖志 定価:1,680円
●プロローグ― 言霊によって現実を変える具体的な方法を初公開 ― どうして日本語は美しいのか? ― 言霊(ことだま)は「単なる迷信」ではない ― 西洋的価値観は私たちを幸せにしたか ― 日本― 新しい文明のパラダイムを提示しうる国 ― いにしえの叡智を今に伝える言霊学と伯家神道 ― 階層性と統合性によって知識を整理する ― 本書の使命とその方法論
伯家神道の秘儀継承者・七沢賢治が明かす神話と最先端科学の世界
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天地創世と五十音の誕生
では、『古事記』の序文に続く創世神話の箇所について、その原文と言霊学における解釈とを照らし合わせることにしよう。
(古事記原文)
天地(あめつち)初めて発(ひら)けし時、高天原(たかまのはら)に成りし神の名は、天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)、次に高御産巣日(たかみむすびのかみ)神(たかみむすびのかみ)、次に神産巣日神(かみむすびのかみ)。この三柱の神は、みな独神(ひとりがみ)と成りまして、身を隠したまひき。
小笠原氏の著書『言霊百神』では、ここに描かれる神々の誕生を言葉の誕生として捉え、次のように解釈する。
(言霊百神注釈)
天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)ウは渾然たる一者であるが、この一者から初めて天地が剖判(ほうはん)を開始する。天地が剖(わ)かれてアとワに対立すると云うことは、吾(ア)と我(ワ)(汝)の二つに剖れると云うことである。(中略)初め宇宙が剖判すると高御産巣日神(たかみむすびのかみ)(アオウエ・イ)、次に神産巣日神(かみむすびのかみ)(ワヲウヱ・ヰ)に分かれる。
天地創造の過程において最初に生まれた天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)は言霊でいうと「ウ」にあたり、そこから「ア」と「ワ」の二つが生じる。すなわち、混沌(こんとん)とした宇宙に生まれた意識を天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)「ウ」、宇宙を照らす意識の光を高御産巣日神(たかみむすびのかみ)「ア」、その光によって照らされた客体としての宇宙を神産巣日神(かみむすびのかみ)「ワ」としてそれぞれ定義づけたのである。
これらの神は造化三神(ぞうかさんしん)と呼ばれ、「ウ」「ア」「ワ」は言霊の出発地点でもある。老荘(ろうそう)思想ではこれと同じことを数で表しており、「一、二を生じ、二、三を生ず」という老子の言葉がそれに該当する。
さらに、「ア」「ワ」の両者からは母音(アオウエイ)と半母音(ワヲウヱヰ)、そして八つの父韻(八律(はちりつ)父韻)が生じていく。以下、そのプロセスについての『古事記』の記載である。
(古事記原文)
次に国稚(わか)く浮ける脂(あぶら)の如くして、海月(くらげ)なす漂(ただよ)へる時、葦牙(あしかび)の如く萌(も)え騰(あが)る物によりて成りし神の名は、宇摩志阿斯訶備比古遅神(うましあしかびひこぢのかみ)、次に天之常立神(あめのとこたちのかみ)。この二柱の神もみな独神(ひとりがみ)と成りまして、身を隠したまひき。
上(かみ)の件(くだり)の五柱(いつはしら)の神は別天(ことあま)つ神。
次に成りし神の名は、国之常立神(くにのとこたちのかみ)、次に豊雲野神(とよくもぬのかみ)。この二柱の神もみな独神と成りまして、身を隠したまひき。
次に成りし神の名は、宇比地邇神(うひぢにのかみ)、次に妹須比智邇神(いもすひぢにのかみ)。次に角杙神(つぬぐひのかみ)、次に妹活杙神(いもいくぐひのかみ)。次に意富斗能地神(おほとのぢのかみ)、次に妹大斗乃弁神(いもおほとのべのかみ)、次に於母陀流神(おもだるのかみ)、次に妹阿夜訶志古泥神(いもあやかしこねのかみ)。次に伊邪那岐神(いざなぎのかみ)、次に妹伊邪那美神(いもいざなみのかみ)。
上の件の国之常立神(くにのとこたちのかみ)より下(しも)、妹伊邪那美神(いもいざなみのかみ)より前(さき)を、并せて神世七代(かみよななよ)と称(い)ふ。
次に、右のくだりについての『言霊百神』の解説である。
(言霊百神注釈)
アとワである陰陽両儀は、オヲ、エヱを分けて、その剖判の最後の段階であるイヰの次元に至って初めて「独り神」「隠(かく)り神」の領域を離れて交流して実相を生む生命活動を開始する。
ここに書かれているのはこういうことだ。
天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)としての「ウ」から生じた高御産巣日神(たかみむすびのかみ)「ア」と神産巣日神(かみむすびのかみ)「ワ」は、それぞれ新たな神を生んでいく。前者からは、天之常立神(あめのとこたちのかみ)「オ」、国之常立神(くにのとこたちのかみ)「エ」が生まれ、後者からは、宇摩志阿斯訶備比古遅神(うましあしかびひこぢのかみ)「ヲ」、豊雲野神(とよくもぬのかみ)「ヱ」が生まれる。
ここまでのところで「イ・ヰ」を除く母音・半母音が出揃ったことになり、この後、次々と父韻に対応する神が生まれていく。
すなわち、宇比地邇神(うひぢにのかみ)「チ」、須比智邇神(すひぢにのかみ)「イ」、角杙神(つぬぐひのかみ)「キ」、活杙神(いくぐひのかみ)「ミ」、意富斗能地神(おほとのぢのがみ)「シ」、大斗乃弁神(おほとのべのかみ)「リ」、於母陀流神(おもだるのかみ)「ヒ」、阿夜訶志古泥神(あやかしこねのかみ)「ニ」―これらが八律父韻だ。
そして、最終的に生まれるのが、伊邪那岐神(いざなぎのかみ)「イ」と伊邪那美神(いざなみのかみ)「ヰ」となる。これで母音と半母音が完全に揃ったことになる。
「イ」と「ヰ」は夫婦として呼び合い子を産んでいくが、その交流の道は「イの道」、すなわち「生命(いのち)」と呼ばれる。またそのように生命を生み出していく活動は「婚(よば)ひ」という。つまり、伊邪那岐神(いざなぎのかみ)「イ」と伊邪那美神(いざなみのかみ)「ヰ」の呼び合い(ヨバイ)ということだ。
それは同時に母音(アオウエイ)と半母音(ワヲウヱヰ)の呼び合いであり、またそこに加えて父韻が呼び合うことでもある。そして、それらの呼び合いの結果として、残り三十二の子音が生まれてくるのである。